日本人の約4割に症状があるといわれる
「アレルギー性鼻炎」。
中でも「花粉症」は、著しく有病率が
増え続けていますが、その治療法として
免疫治療法が注目を集めています。
小児の発症も増加
「アレルギー性鼻炎」は、
「通年性アレルギー性鼻炎」と
「季節性アレルギー性鼻炎」に
分けることができます。
「通年性アレルギー性鼻炎」の原因と
なっているのは、主に
「ヤケヒョウダニ」「コナヒョウダニ」と
いったダニで、そのほかに動物の上皮や
カビなどがあります。
学童期に多く発症し、女性よりも男性が
多いのが特徴です。
もう一方の「季節性アレルギー性鼻炎」が、
いわゆる「花粉症」です。
原因として特に多いのがスギ花粉で、
2月~3月が発症のピークになります。
その他、特に6月~7月ではイネ科や
キク科の植物の花粉が原因の場合も
あります。
こちらは女性の方が多く、20~30歳代が
好発年齢とされていますが、小児での
発症も珍しくなくなってきています。
例えば、1992年には約18%だった小学
6年生の有病率は、2012年には約32%
という調査結果があり、発症が低年齢化
していることが分かっています。
戦後にスギの植林が進んだこともあり、
花粉の飛散量がふえたことや私たちの
体質の変化によって、有病率が増えて
いると考えられます。
【 生活の質が著しく低下 】
花粉が人体に入ってくると、免疫機能で
花粉を異物と認識し、「IgE抗体」が
作られます。
この抗体が、免疫に関係する
「マスト細胞」と結合した状態の時、
再び花粉が入ってくると、マスト細胞から
ヒスタミンなどの物質が放出され、
知覚神経や毛細血管を刺激します。
その結果、主な症状である、くしゃみや
鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどが
起こるのです。
加えて、症状がひどくなると、夜間に
睡眠が妨げられるだけでなく、薬剤の
副作用などで日中に眠気が増加するなど
睡眠にも影響することがあります。
結果として、患者さんのQOL(生活の質)
著しく低下してしまいます。
しかも、自然に改善することが少ないので、
一度、発症して症状が強くなると、長期に
渡って薬を服用する必要があり、医療費も
かさんでしまいます。
また、ぜんそくやアトピー性皮膚炎などが
ある人は、花粉症を合併しやすく、症状が
悪化することもあります。
根治の可能性ある「免疫療法」
【症状に合わせた薬を選択】
治療の開始に当たっては、原因を
確認することが必要です。
その上で、花粉症であれば、原因物質である
花粉への暴露を少なくするために、マスクや
眼鏡を着用したりします。
外出時は、ツルツルした素材の衣服を着用する
ようにし、十分な手洗いや洗顔、うがいで、
室内・体内への花粉の侵入を防ぎます。
そうしたセルフケアで十分に症状が改善しない
場合、薬物治療がメインになります。
かつてと比較すると、眠気が強くなるなどの
副作用が少なく、かつ、服用回数も少ない
薬剤が多く開発されています。
薬剤は、強く出ている症状に合わせて選択。
くしゃみや鼻水であれば、ヒスタミンを
抑制する「抗ヒスタミン薬」やマスト細胞
からヒスタミンが放出されるのを抑制する
「ケミカルメディエター遊離抑制薬」が
用いられます。
また「局所鼻噴霧用ステロイド薬」を
使うこともあります。
鼻づまりであれば、「抗ロイコトリエン薬」で
鼻づまりの原因物質を抑え、目のかゆみは、
抗ヒスタミン作用のある点眼薬を使います。
一般的には、こうした薬剤を組み合わせて
症状のコントロールを行います。
薬物治療で鼻の症状が改善しない場合、
鼻の構造に異常がある場合がありますので
一度、専門医の診断を受けることを
お勧めします。
その他、レーザーで鼻の粘膜を焼くことで、
スギ花粉による症状を軽減させる
「鼻粘膜焼灼手術」も検討されます。
ただし、レーザーでの手術を行っても、
粘膜は再生しますので、再発の
可能性もあります。
効果も患者さんによって異なります。
7割以上が効果に満足
スギ花粉症の根治治療として期待を
集めているのが「アレルゲン免疫療法」です。
以前は「皮下注射免疫療法」といって、
希釈した原因抗原エキスを、少しずつ
濃度を上げながら皮下投与する方法が
メインでした。
治療開始から約4ヵ月間は週2回、その後は
1ヵ月に1回の投与で、治療期間は
少なくとも3年は必要です。
注射の痛みや通院など、患者さんの負担が
あります。
また、非常にまれではありますが、ぜんそく
発作などアナフィラキシーショックが
起こることがあるので、注意が必要です。
2014年からは、「舌下免疫療法」が
保険適用となりました。
これは、スギ花粉の抗原エキスを、
1日1回、舌の下(裏)の粘膜に入れて
投与するものです。
長所として
① 自宅での投与が可能
② 痛みがない
③ 重篤な副作用が激減
などがあります。
症状が軽減し始めるまでは2か月程度かかり、
最低2年間、できれば3年程度は投与を
続けます。
経過観察のため、治療開始後は1ヵ月に1回の
通院が必要です。
ごくまれに、口のかゆみなどの副作用が出る
場合があります。
また、エキスは必ず冷蔵庫に保管してください。
この治療法は、全ての人に効果があるわけでは
ありませんが、治療を受けた多くの人は症状が
改善し、7割以上の人が治療に満足している
という調査結果があります。
中には症状が見られなくなった人もいます。
治療は花粉飛散期を避けて、その2か月以上
前から開始する必要があります。
従って、スギ花粉のシーズンではない、
6月~12月がお勧めです。
ちなみに、ダニが原因の通年性アレルギー性
鼻炎に対する舌下免疫療法では、2015年に
錠剤の薬剤が発売されています。
根治治療として期待が大きい
「舌下免疫療法」ですが、現在は12歳未満の
小児には適用できません。
小児への適応拡大も検討されていますし、
また花粉症の予防効果についても研究が
進んでいます。
参考までに
http://www.kyowa-kirin.co.jp/kahun/treatment/special.html