お家で時間を持て余しているときは、本を読んでみるのもいいのではないでしょうか。
開かれた対話と未来
ヤーコ・セイックラ、トム・アーンキル著
斎藤環監訳
フィンランドの地方病院で実践されてきたケア手法
「オープンダイアローグ(開かれた対話)」が、
統合失調症など精神障害への対人援助に
成果を上げ、注目されている。
本書は、その創始者らによる2冊目の
共著の邦訳版。
原書はフィンランドの公的刊行物だ。
全編を貫く(語り)の形式、医療の常識を
覆して専門職主義・官僚主義の弊害を
軽やかに越えていく思想と技法、多くの
実例は、読む者を飽きさせない。
臨床実践の専門書という枠を超え、
広く日常にある「対話性」の本質に
ついても、私たちの目を開いてくれる。
監訳者の斎藤環氏は、日本における
オープンダイアローグ普及の代表的人物。
初心者でも読みやすいように全章の
道しるべとなる丁寧な解説を寄せている。
オープンダイアローグを成立させる核は、
「他者の他者性」すなわち他人は自分とは
異なる存在であることを、歓迎し尊重する
態度である。
対話は、自分の意図に則して他人を
コントロールし、変えようとすることではない。
相手をありのまま受け入れ、言動に即して
反応することが重要だ。
〈不確実性〉へ一緒に飛び込み、音楽の
即興演奏のように応答し合う時、対話は
手段ではなくそれ自体が目的となる。
“聞いてもらえている”
感覚と安心に、真の「対話性」は宿る。
私たちの生は、関係性の中に成立している。
「今この瞬間に他者を思いやる」
かけがいのない対話を重ねる先に
〈双方向の変化〉は始まるのである。
「ふつうの子」なんて、どこにもいない
木村泰子著
大空小学校には校則がない。
あるのは
「自分がされて嫌なことは
人にしない。言わない。」
という一つの約束だけ。
だから椅子に座るのがしんどい子も、体操服に
着替えるのがつらい子も、学校に来るし
体育もできる。
特別支援学級もない。
教室にいろんな子がいて成長できる。
「周りが育てば障害はすべて個性に変わる」。
ありのままの自分で居場所があるから
不登校もゼロ。
著者は、大空小の初代校長。
地域の学校として
「すべての子どもの学習権を保障する」
ために奮闘。
目に見えない差別や排除を大人がしている。
まず大人が自分を問い直さなければ。
楽しいエピソードが次々と。
大空小の子どもたちは、必要なら
校長先生にも「わかってへんな」と
ダメ出しする。
教師も子どもも同じ学びの仲間なのだ。
目標は
「人を大切にする力」
「自分を表現する力」
「自分の考えを持つ力」
「チャレンジする力」を身に付けること。
それが、なりたい自分になる力、
誰かと共に生きる力になっていく。
ありのままの自分をだせるから成長できる。
「学び」は楽しいし、子どもは幸せになる
ために学校に来る。
子どもに関わる人たちに読んでほしい。
きっと悩みが希望に変わる。
(シンク・シビリティ)
Think CIVLITY
クリスティーン・ポラス著
夏目大訳
礼節が、いかに自分の生活を豊かにし、
人生のプラスとなるか。
20年かけて研究を続けた米国の女性
研究者が、多くの事例と数値データを
もとに、分かりやすく問題提起した書。
説得力を持たせるため、個人の礼儀
正しくない(=無礼な)態度が、企業に
どの程度の損害を与えるか、金額などを
算出している。
印象的なのは「無礼な態度」がウィルスの
ように周囲に感染していく指摘だ。
職場の中に一人、無礼で自己本位に
振る舞う人間がいると、そうした行動の
影響を受ける人間が必ず出てくるという。
これは、その組織において好ましいとは
到底いえない。
ましてや職場の上司が「無礼な人間」で
あったら、どうなるのか。
無礼とは、礼節ある態度と逆の概念だ。
敵意や攻撃性を含み、具体的には皆の
前で怒鳴る、依怙贔屓する、能力や
働きに応じた正当な評価を行わない
などの行為も含まれる。
本書では、自分がどの程度、礼節のある
人間かをチェックするためのスケールが
示され、改善法も多く紹介。
礼節ある行動の結論として
① 心からの笑顔を大切にする
② 相手を尊重する
③ 聞くことに比重を置く
といった「3原則」が示される。
仕事で成功したい人や影響力を高めたい
人に読んでほしいと著者は望むが、
単なるハウツー本でなく、学術的な
裏付けが示されている点が特徴的。
職場に限らず、あらゆる組織の
責任者に有用だろう。
僕らはそれに抵抗できない
アダム・オルスター著
上原裕美子訳
スマホのアプリやネット上の各種
プラットフォームは追体験を求めるように
設計されている。
それは、体内に物質を取り込むわけではないが、
薬物同様の依存性を生む・・・
現代人の多くが、思い当たるだろう。
本書では、SNS、ゲーム、動画などの普及に
よって今や誰もが免れがたい、依存症的な
悪癖の習慣「行動嗜癖」について、現状と
対策が考察されている。
ここには戦慄すら覚える報告もある。
多くの1歳児にとって、「スワイプ」は
極めて自然な動作だが、雑誌を手渡しても
扱い方が分からないという。
表紙をなぞっても写真が切り替わらず
いら立つ。
ある心理ケアの専門家は
「ピクルスになった脳は
二度とキュウリに戻らない」と。
つまり
「ネット依存の後遺症から
完全に逃れることは不可能」
と指摘する。
オンラインのコミュニケーションや
ゲームばかりしていると、人は人と
向き合って話をする力が衰えるのだ。
対面の場での言外のやりとり、曖昧さや
「間」すら、分からなくなる。
著者は、デジタル技術の恩恵を受けつつ、行動と
環境の「依存を促さない思慮深いデザイン」が
重要という。
その具体策も含め、大変示唆に富む一書。